◆ 掲示板との邂逅
私はたけし、32歳。都心から少し離れた街のIT企業で働いている。
結婚して5年。妻との生活は外から見れば平穏だったが、実際は少しずつ心が離れていた。
会話は減り、夜の営みもいつしか遠のいた。
日々に追われるだけの暮らしの中で、私はいつしか何かを求めていた。
ある晩、何となくスマホを操作しているうちに「人妻掲示板」というページを見つけた。
名前にはためらいを感じたが、どこか惹かれるものがあり、画面を眺め続けた。
その中で目を引いた投稿があった。
ルナ・28歳・パート主婦
夫とはすれ違いの毎日。日常の寂しさを、誰かと分け合えたらと思っています。
添えられていた写真は、控えめな笑顔の女性。
やさしげな表情の奥に、どこか影のようなものを感じた。
迷いながらも、私は「ブルーナイト」というハンドルネームでメッセージを送った。
初めまして、ブルーナイトと申します。
私も日常に少し刺激を求めています。よろしければお話ししませんか。
送信した直後、胸の奥で鼓動が速くなるのを感じた。
◆ メッセージの往復
翌朝、彼女から返事が届いていた。
ブルーナイトさん、はじめまして。メッセージありがとうございます。
少しドキドキしています。どんな方なのか、気になります。
その一文に、こちらの緊張も少し和らいだ。
やり取りは、自然と続いた。最近観た映画や料理の話、休日の過ごし方。
何気ないやり取りの中に、彼女の人柄が滲んでいた。
夜、一人で食事をとるとき、ふと空しくなります。
その言葉が胸に残った。私も同じだった。
私も似たような状況です。
何かに向かっているようで、実はどこにも進んでいない気がします。
彼女は横浜に住んでいて、私とは少し距離があった。
だからこそ、メッセージの関係が続いていたのかもしれない。
数ヶ月の間に、互いの心の内を少しずつ言葉で分け合うようになった。
彼は優しい人ですが、最近はただの同居人のような感覚です。
出張も多くて、なかなか帰ってきてくれません…。
その告白に、自分の中の何かが揺れた。
妻以外の女性に、こんなにも強く惹かれていく自分がいた。
◆ 初めての対面
やり取りが始まって3ヶ月ほど経ったころ、彼女から一通のメッセージが届いた。
よかったら、そろそろ一度お会いしませんか？
迷いはあったが、それ以上に気持ちが傾いていた。
都内のカフェで会う約束をした。
当日、私はスーツ姿のまま、少し早めにカフェに着いた。しばらくして、店の扉が開き、彼女が現れた。
写真よりもずっと華やかで、でも決して派手ではなかった。淡い色のワンピースが彼女の雰囲気によく合っていた。
ブルーナイトさん？ お会いできて、嬉しいです。
席につき、コーヒーを飲みながら話す彼女の声は柔らかく、時折見せる恥じらいが印象的だった。
こうやって、誰かと心を開いて話すのって、本当に久しぶりで…
その言葉に、こちらもつい本音を返してしまう。
時間が経つのを忘れるほど、会話は心地よかった。
本名や、職場のこと…。すべてをさらけ出したくなるほどに。
◆ 距離の変化
その日以来、月に一度ほど会うようになった。カフェだけでなく、夜のバーに行くこともあった。
ある夜、彼女が私の手をそっと握った。
たけしさんといると、自分がちゃんと笑ってるなって思うんです。
その表情に、心が大きく動いた。
少し酔った帰り道、彼女が立ち止まってこちらを見た。
こんな気持ち、久しぶりで…どうしても止められないんです。
彼女が身体を寄せてきたとき、唇が触れ合った。
静かなキスだったが、頭の中の理性が途切れたような気がした。
そのまま、お互いを貪り合うように求め合うようにキスが続いた。
◆ 一線を越える
数週間後、彼女から届いたLINEには、こう綴られていた。
週末、少し遠出できませんか？
二人きりで、ゆっくり過ごしたいです。
提案されたのは、都心から電車で1時間ほどの温泉旅館。
「会社の研修があって」と妻に嘘をつき、私はその日を迎えた。
チェックインを済ませ、部屋に入ると、すでに外は夕暮れの気配を帯びていた。
窓を開けると、遠くの山並みに橙色の光がにじんでいる。静かな場所だった。
ルナは浴衣へ着替えると、窓際に立ち、景色を見つめていた。
その横顔は、どこか迷いと決意の入り混じった表情に見えた。
振り返った彼女の目が、そっと私を捉える。
こういうこと、自分でも信じられないんです。
でも、たけしさんとなら…。
その言葉は、彼女自身への言い訳でもあり、私への信頼でもあった。
ゆっくりと近づいた彼女の手が、私の胸元に触れた。
布越しに伝わるその指先は、ひどく震えていた。
私はその手を握り返し、静かに引き寄せた。
浴衣の襟元からのぞくうなじ、肩、鎖骨。
淡い照明に照らされたその肌は、まるで湯気のように柔らかく、温かそうだった。
ルナの指が、恐る恐る私の首筋に触れる。
そして唇が、そっと重なった。
最初は確かめるような、浅いキスだった。
けれど、数秒のうちに、二人の呼吸が変わっていく。
吐息の熱が交じり合い、唇はやがて深く、強く、求め合うものへと変わっていった。
私の手は、彼女の背中をなぞりながら腰へと回る。
細く柔らかな身体が、自分に委ねられていくのがわかった。
ルナが浴衣の紐を、自分の手でゆっくりと解いた。
静かに滑り落ちる布。その下から現れた肌の白さに、一瞬息を飲んだ。
彼女は少しだけ顔を背けながら、でも逃げずにこちらを待っていた。
…たけしさんに、触れてほしいの。ずっと、そう思ってた。
その声は、かすかに震えていた。けれど、確かに本心だった。
浴衣のまま布団に並び、彼女と向き合う。
唇がそっと触れ合い、肌の熱がじんわりと伝わってくる。
まぶたを閉じた彼女の頬がほんのり紅く染まり、吐息が近くで絡んだ。
帯を解く手が触れた瞬間、彼女の身体がわずかに跳ねる。
柔らかな肌が月明かりに照らされて浮かび上がるようだった。
…恥ずかしいけど、ずっと……こうしてほしかった…
彼女の手が私の胸元に触れた。
指先は迷いながらも確かで、そのぬくもりに思考がかき乱される。
ゆっくりと身体を重ねた。
擦れ合う肌が火照り、触れるたびに彼女は息を詰める。
静かな部屋に、布団のきしみと微かな喘ぎ声が溶けていく。
こんな気持ち、ずいぶん長く…忘れてました…
言葉よりも、触れ合う体温がすべてを語っていた。
◆ 選べない現実
朝、隣で眠る彼女の寝顔を見つめていた。
前夜のことを思い返しながら、感情が交錯していた。
彼女は目を覚まし、穏やかな声で話しかけてきた。
夢みたいですね。…現実じゃなくても、私は嬉しいです。
帰宅後、妻は何も知らないまま、いつもの笑顔で迎えてくれた。
その姿が胸に刺さった。自分は何をしているのか、何度も問いかけた。
それでも、ルナとの関係を終わらせることができなかった。
最近、夫に気づかれているような気もします。
でも、たけしさんに会いたい気持ちが止まりません。
どうしたらいいでしょうか…。
彼女からのそのメッセージを読んだとき、私はただ画面を見つめていた。
妻のこと。ルナのこと…。色々な思いが頭を駆け巡った。答えは出せなかった。
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